思い出/小川 葉
 


帰り道
若い恋人を見た
正確にはまだ
恋人ではなかった

とても美しい光景だった
青白く月に照らし出された二人が
自転車置場で明るく語りあっていた
自転車のハンドルを手にしたまま
そのどちらも自転車に乗ろうとしない
スタンドを立てて
立ち話もなんなので
その辺の居酒屋で、などと
見ているこちらが勧めたいくらいなのだが
こうして青白く月に照らされながら
明るく語りあうのが良いのだろう
これからはじまることを
なにひとつ予測することなく

そうしてそのまま二人は
自転車を押して行ってしまった
なるべくこの時が終わらないように
一歩ずつまた一歩ずつ
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