思い出/小川 葉
 
ずつ
嫌なくらいゆっくりと
自転車を押しながら

その後を
ついていくわけには
いかなかったけど
ついていったらついていったで
あのはじめての夜
へんなおじさんがいたね
あれはなんだったんだろうね
などと、思い出話の
登場人物になるのもしゃくだったので
自転車をこぎ出して
その場を去ったのであるが
その夜の月は何とも言いようがなく
たいへん美しかった

若いということは
永遠なのだ
きっと彼らにとって今夜は
終わりのない人生の一頁なのだ
わたしにもかつてあった
だから今夜はやけに懐かしい

家について二階の窓から
青白い月を見ていた
わたしとわたしの家族を
明るく照らし続けていた
あの日妻に会った夜から
なにひとつ変わることのない
終わりのない人生の一頁を
夜風が一枚捲った


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