金木犀と綿が舞うような/01
た。彼は自分を韜晦しているようだから、それはただの僕の想像だけれど、僕は、そんな彼と話すといつも少し恥ずかしくなるし、そんな自分に辟易する。
「まあ、雪虫は図鑑でもみれば大きさも色も大体わかるけれど、金木犀の香りはいくら調べても図鑑を見ても、物知り爺さんに聞いてもわかんないな。残念だねー、可愛そうなぼくちゃん!」
ケタケタと笑う声が聞こえる。その声の主が手に持ってるであろう、短くなっている煙草の火が、指に触れてしまえばいいのにと少し思う。
「そのうち雪虫箱いっぱい詰めて送るから楽しみにしててね。」
僕はそれだけ言って電話を切り、会話を強制終了し、黒い携帯電話を白いベッドに放り投げた。
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