林檎のある浴室/リンネ
 
かしい。両手で必死に扇いでみるが、厚い霧に阻まれて、少しずつ女の顔が見えなくなっていく。そのまま、すぐに目の前がまっしろになってしまった。
 湯気は不思議なことに、鎖骨から上だけを覆っているのだが、むしろ自分はそのことで不安である。私は、さっきまで見ていたはずの女の顔が、すっかり思い出せなくなっていたのだ。浮かんでくるのはまずどうでもよい人の顔ばかりで、思い出そうとするほど、女の顔がそれらに埋もれていく、という、妙な状態になってしまった。

 ふいに、誰かのすすり泣くような声が聞こえ、私はどきりとして耳をすませた。どうやら、その泣き声は、湯船の中から聞こえてくるようである。
 水面の一点を
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