ある徘徊譚/リンネ
 
しかし友人のAはもはやレストランに行くことも忘れて、エスカレーターを登っているので、それがとても頭にくる。もしやッ、と思い、地図を開き、しらみつぶしに探してみると、この駅の中にX…というレストランがあった。それが待ち合わせ場所だという確信はないが、自分は、すでにエスカレーターに乗って上の階へ移動している。どこからか、店内放送が流れているが、よく聞いてみると、それは友人のAの声であった。

「不思議なものだね」
「とても、とても」
「というのもつまり」
「つまり?」
「もうじき、だ」
「ほんとうに?」
「わからない、もしかしたら」
「そのとおりだ」
「夢を見ているのかもしれない」
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