ある徘徊譚/リンネ
い」
自分はいよいよレストランへ入って行くが、ほんとうは、もう約束など忘れてしまっている。心のどこかでは、また遠く、あてどもない移動をくりかえす予感が生まれようとしており、だが、そのことに気がつくのは、とうぜん少し遅れてのことである。現に自分は、もうレストランをあとにして、友人のAを追いかけはじめている。しかし、それはまた、いつものことだろう。プラットフォームに電車が到着し、ぎりぎりで駆け込むと、さて、自分はふたたび抑えがたい絶望に襲われているのだ。つまり? これは決して夢ではないのだと、その身をもって実感している、そんな様子なのであった。車内にはたくさんの人が乗り込んできており、友人のAは、それに紛れていつのまにかどこかへ消えてしまった。不思議と静かな車内である。
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