反映/豊島ケイトウ
を舐める男のみでございます。
(ああ、思い出すだけでひすひすする。
どうしてこんなにもひすひすするのか。
ひすひすするたびに胸腔のナイフが柄を濡らす。
じんわりと濡らしやがてしとどになる)
その男は眼球を持たず、眼窩の奥にきざはしがありました、見とれているうちにどこか切ないせんない場所に導かれそうな気がいたしたものです。
一見、怜悧で心根も悪くない感じを受けるのですが、ナイフですね、刃渡りの長いナイフがよろしくないわけでございます。
ワタクシの部屋はちょうど長屋に面しておりまして、カーテンのすきまからいくらでも男の内緒を垣間見ることができました――男は始終、ナイフを
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