かれん/salco
 
新宿駅の地下連絡通路に連なり通行人をガイドする
柱の鏡で彼女は念入りな化粧の最中だった
思春期の門口に立つ少女のようにあどけなく熱心に
出勤前のホステスのように身を乗り出し一心不乱に
何千という行進の靴音と視線の中
夢のように淡いピンクのオーガンディーの
ベビードールのドレープに身を包み
腿が大きく裂けた肌色のストッキングに靴もなく
牡丹のように巨大な髪飾りを赤と紫二つ付けた
ラガディ・アンのもつれた頭を鏡にぐっと寄せ
そこに映る三十代の少女の真赤な頬に
細心の注意と賛意を込めて尚もブラシで円を重ねる
染みひとつない、
八○年代アイドル歌手の衣裳じみた寝巻よりむしろ

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