コメディ / ****'04/小野 一縷
 
巻く 葡萄の樹
その実は銀色 水泡のように輝き熟れている
風の無い合間 その房は 停止した寒さに震える
熟れきって落ちるのを 恐れるように 静かに
風の始まりを また 怯えながら 待ち続ける
風はその強さで 時間の流れを表している


痒みを帯びた赤い手 蒼白な肌のアムペロスが
蜃気楼へと溶けて続く道の上で その若さを熟してゆく
彼の苦く顰めた額の汗粒に 透明にきらきらと 
太陽が幾つも 痛いほど照っている
路上 売春婦の吐く紫煙が 彼を青年期へと誘う


若いアレスは 陰鬱な平穏に満ちた 祖国を捨て
火薬庫と呼ばれる国で 志願兵として戦っている
濁った水溜りが 
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