ナルシス・ナルシス・/リンネ
 
を近づけた――が、やや手間取ったせいか、すでに人々は元のようにせかせかと動き始めていた。あの女はどこにも見当たらなかった。瓶のふたを開ければ、匂いだけでも微かに残っているのではないかと思ったが、別の女のものかもしれないことを考え、それはやめた。
 Nは気を沈ませた。自分の愚鈍さに眩暈がする。どうも今日は悲観的になりすぎるようだった。たかが瓶の中の人物ごときに、なぜこうも――Nは久しぶりに外の空気が吸いたかった。そして、まるで水中を浮上する泡のように無自覚な足取りではあったが、しばらくしてようやく彼はその部屋を抜け出したのである。

 昨晩降った雪で、外の景色は青白くなっていた。雪はまだぱらぱ
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