ナルシス・ナルシス・/リンネ
 
り込む、Nの間延びした顔の向こうで、住民はせっせと動き回っている。まるで、泳いでいないと死んでしまうカツオのようである。瓶を軽く振ってやると、底に溜まっていた埃のような粉が舞い上がった。瓶の中では人々が無関心にそれを見上げている。住民たちの活動の一切が止まり、それに沈黙が続いた。
 立ち止まる人々の中に、見覚えのある女がいた。若々しく、蟻のような光沢のある黒髪が、背筋の半分くらいまで伸びていた。それがどことなくエロチックである。肌が白いのだが、それは美しいというよりも、むしろ頼りなさげで、色素のない白という感じだった。Nは、その女の顔がよく見えるようにと、引き出しから虫眼鏡を取り出して瓶に顔を近
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