ジュリエットには甘いもの 後編/(罧原堤)
 
錯乱気味で巣を出て、無茶苦茶に飛び回って、森林の中を闇雲に歩き回ったが、しかし、九州からは出ていないはずだ。なのになぜだろうか。こんな方言はありえないわけだが』
「そ、そうなんですか……」
「遭難でもしたかお前さは? ど、わっはっはっはっは」『なんだこの親父ギャグは』「しっかし、おまえっさは疲れきった声ばしとるたいな、どぎゃんしたとや?」
「いえ、道に迷い、疲れきってしまってて」俺はこの農夫に甘えてみようと思っていた。なぜだろうか。それはたぶん言葉遣いはどうであれ、この農夫が暖かい声をしていたからだと思う。だからこの農夫の妻もきっと暖かい心の持ち主で、そして子供も、と。
「あの、もしよろし
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