ジュリエットには甘いもの 後編/(罧原堤)
 
う。そいつが腕まくりしながら驚いたことに、匍匐前進してきた。俺を睨みながらだ。俺はぺこりと頭を下げた。がっしりと拳と拳とが握り合わされた。勝負は一瞬で決まった。ただのデブだった。俺の鍛えられた筋肉によって何度も何度も手の甲を床に付けられていたデブは息をきらせて、杏、あんずのような匂いを出し始め、匂いとともに、
「なああんた、なんで俺らがこんなことやってるか知りたくないか……」
 俺は少し手加減して力を緩めた。デブは手をプルプルさせながらこれ以上負け続けたくないと、必死に抵抗を試みている。
「いや、別に」
 デブは聞いていないようだった。デブは自分の世界に酔いしれていた。その世界は紅色、くれ
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