ジュリエットには甘いもの 後編/(罧原堤)
 
くれないいろの世界だった。まどろみの中でデブは数人の裸婦と共に丘をのぼりつつ、希望の灯火、ともしびに照らされた光の世界で、儚げな夢を見つつ、心の中の闇を見透かされるのを極度に厭う。いつまでも夢を見続けてればいい。美女たちとともに。そうだろ? デブよ。
「……もともとこの家の夫婦はろくに会話もしない仮面夫婦だったんだ。お互い好きでもないのに世間体を気にして、そんで結婚しただけの話さ。……それだというのに隣近所の農家とは交流も持たずに仕事が終われば無言。ただ飯を作り、ただ飯を食う、ただ風呂を沸かし、ただ風呂に入る、そうさ、そりゃ何も他人とまったく会話しなかったわけじゃない、朝あえばおはようございます
[次のページ]
戻る   Point(0)