ジュリエットには甘いもの 後編/(罧原堤)
 
   15  ひしゃげた心のクラゲたち

 二つの影が夜空を走っていた。谷の亀裂のように。谷。それはどこの谷でもいい。世界の名所などではなくともいい。ニューヨークの崖でもいい。そこでは少年がルアーを激流にただよわせ、父親に、
「はは、まだまだだな、あと半年は練習しないとな」などと言われ、笑われて、照れた少年はうつむいて黙り込んでしまう。シーンと静まりかえる渓谷。川に何かの花が流れていて。
 なんだろうか。砂漠の真っ只中で荒れ狂う砂塵のように叫び狂いたい。なぜかはわからない。今朝も俺は起きぬけに叫びだし、巣を飛び出た。そしてびりびりに破けた羽を捨てて、歩き回り、もう日が暮れてしまった。すると
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