ジュリエットには甘いもの 前編/(罧原堤)
影を追う。男らは私の知故になろうと微笑を浮かべて私の蜃気楼に会釈する。
「リン」永遠にうだつのあがらない中小企業の役員が私に気安く語りかける。もちろん私は、こんな俗物を相手にするほど心は汚れていない。私の心、それはむろん、水晶のように透き通り、そして輝きに満ちている。
「どうだい? 絵は順調かい? こんど個展を開くそうだね。私の会社から金を出そうかい? どうだね?」
私は醜い者から目をそらし、紅がかったワインをグラスに注ぎ、舌で転がし、味わう。この男の喉元を私は、ナイフでえぐってみたくなった。
「どうでしょう? あなたの血で絵を描かせてもらえませんか? きっと素晴らしい痴呆の哀れさが描け
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