ジュリエットには甘いもの 前編/(罧原堤)
描けると思うのですが」
男は何も理解することなく、微笑み続けている。
「それは、今度考えておきましょう」
私は冷笑し、「そうですか、それは残念です。あなたの腐りきった血で一度、屍にむらがる蠅でも描いてみたいと思ったのですがね」
彼ごとき矮小な人間の返事を待つ私ではない。薔薇の香りを残し、颯爽と私はこの醜き集会をあとにする。私のねぐらへと。
私は酔狂なことに、私の化身の儚げさにふさわしくないことだが、悪趣味なことに耽溺することがある。アトリエにモナリザの複写を4枚ほど飾っているが、どれも数日前に描いたもので、それぞれ、情欲、苦痛、憎悪、嫉みの感情をその顔に顕して、私のみなもとでたゆ
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