ジュリエットには甘いもの 前編/(罧原堤)
ぁ、と一声残し、ドストエフスキーは血まみれになり床に倒れふした。
この日からわずか数年の間に彼は五大長編と呼ばれる傑作を次々に書き、天才の名をほしいままにした。今は地獄にいるらしい。
1 私より美しいものはこの世に存在していない
陰惨なパーティーだった。薄汚い蠅たちの毎度お決まりの馬鹿騒ぎ。着飾っているつもりの、高慢な豚女。猿のような男たち。西洋と東洋の血が半分ずつ流れている私、神秘的な顔立ち、流麗な挙措動作、どれをとっても私一人だけが、この場の空気にそぐわない高貴さを持ち合わせていた。どうやら私は皆の期待をいっしんに集めているらしい。女らは欲情に狂ったまなざしで私の影を
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