彼の鞄/非在の虹
家にやって来た
夕食を終えてぼんやりテレビを見ていると
玄関でいやに元気な声がして、彼である
ある日は午前中にやって来て、訳を聞くと
「ネクタイが今朝なくなった 出勤はひと先ず止めです」
と裸足のままジャンプする
口臭カ
臭イハスルノダガ
ワカラナイ
彼は何かのセールスマンらしい
しかし何物も売ろうとせず
いわば苦労話のようなものをするが
そんなとき 彼はいかにも嬉しそうだ
いやわたしは彼の不機嫌や憂鬱を見たことがない
「首を絞めたって買わな
[次のページ]
戻る 編 削 Point(1)