彼の鞄/非在の虹
 
わないやつは多い」とか
「挨拶をしたら殴ってきた不動産屋と飲みに行った」
という話をしている彼はジッとしていることはなく
笑い転げたり目玉をぐりぐり回している

                
                動悸ガ高マル
                遅スギタ後悔ガ鞄ニ伝ワリ
      ユックリ揺レテイル


その彼がまったく来なくなってしまった
彼の方から一方的に来ていたこともあるが
誰も彼の何者かを知らない

                
             音スル鞄
                  シカシ気ニスル音デハナイ


彼が置き忘れて行った鞄がもう一年近くも
わたしの寝室の隅にある
毎日ほこりを払ってやるが
わたしはなぜかそれ以外のことが手につかず
家族の入った鞄のそばにしゃがんだまま
寝室の隅から動けないでいる。


    2007年初稿 2009年弐稿 2010年参稿
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