『過夏幻影』 より抜粋 (二十句)/ま のすけ
 
 あめんばうの生み出す水の陰ひかり
 弥陀堂の板目をそむく素足かな
 だだちゃ豆和紙を透かして寄る灯かな
 風舐める火蛾(ひが)なき夜の虫媒花(ちゅうばいか)
 舟べりを鵜匠の叩く木曽の夜
 擬薬(プラセボ)や病棟に夏闌(た)けてゆく
 死神の翳り一弁ゆり真白
 大仏の短かき夜を百語る
 幻影の打たるる水と消失す
 生も死も陰ひたすらに炎天下
 端居(はしゐ)して今また一歩死を背く
 醤香(ひしほか)の櫓(やぐら)艶けき晩夏光
 麻紐を巻き取る指輪秋に入る
 追悼の風六十年の赤と
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