夜明けるクラクション/水川史生
沈殿する言葉。
誰の目にも触れない。この指が刻めるものはあまりにも少ない。鉄塔まで駆けたあの子は帰ってこない。春に似た娘も戻ってこない。駆けずりまわっていつか死ぬんだ。いつか。いつか。
願われることは容易い。その向こう側もペンを握ったところでまがい物でしかなかった。まがい物でしか、なかったよ。
どうして盲目に愛したんだろうどうして盲目に生を貪ったんだろうだからわたしは夜に抱く。
(音楽、ピアノの音色。一度だけ真っ赤に染めたネイル。弾き続けた黒白と、踊り明かしたあの夜のこと。きらきらしていた。きらきら。すべてが。)
浅くたゆたうシーツが最後に、誰かの身体を包んで暖かくなればそれで
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