借りた詩集 天野 忠詩集/ふるる
なのを載せます。
「老衰」
十二月二十八日正午一寸前。
生まれて初めて
へた、へた、へた、と
私は大地にへたばった。
両手をついて
足の膝から下が消えて行くのを見た。
七十八歳の年の暮れ。
スキップして遊んでいる子供がチラとこちらを見た。
走って行った家から人が出てきて
大地にしがみついている私を
抱き起こした。
「どうしました」
冷静に
私は答えた。
「足が逃げました」
(遺稿詩集『うぐいすの練習』より)
まさに、「一人の平凡な人間としての詩人の、ことばの機知を恃(たの)みとする、日常の些細(ささい)な風景への軽やかな接近で
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