樹木の定義/葉leaf
ると、その幹はきれいでなめらかな円筒形をしていた。彼はその幹に抱きつきたい衝動を何度も覚えた。それが、その幹が女性の肉体に似ていたからだと気付いたのは彼が成人してからだ。その幹は、彼のさわやかな欲望を抽象的に集めることで密度を増し、彼の執着によっては決して絡めとられない垂直さを枉げず、彼の性の覚醒までにはまとまらない不規則な光線を彼に与えそして奪い続けた。
彼はあるときその桐の木に近づいてみた。がさつな木肌に彼は欲望を失った。
入学試験の出来が悪かった。地下の定食屋で焼き魚定食を食べながら、私は下がった体温と乱れた思考と分厚く満ちた感情とをむなしく咀嚼していた。定食屋の、BGMと客の会
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