シコシコ/攝津正
 
ある。自分が死んだら親が悲しむと思うから、死ねない。親が亡くなったら、親から解放されたら、唯一の自発的な自由な自分の行為は自殺であろう。生からの解放であろう。それ程攝津の生への厭悪、死への執着は強かった。
 攝津は二十年以上も死にたい死にたいと思いつつそれが許されぬという状況で生き長らえてきた。その間、音楽家になろうと試みた事は一度や二度では無い。だがその試みは全て失敗してきた。無数の試みの失敗の結果が今の駄目人間な攝津である。惰民の攝津である。惰性で生きている攝津である。
 希死念慮は、ソニー・スティットの『ペン・オブ・クインシー』を聴きながら帰宅するうちにいつのまにか和らいでいた。自宅に居
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