シコシコ/攝津正
が攝津は、ジャズピアニストになりたいのだった。自分の不器用さや限界はよく認識していた。だがそれでも、そう願う事をやめる事は出来なかった。
今日、石田幹雄という人のライブに行ったが、攝津は嫉妬を感じ、猛烈な自殺衝動に襲われた。何故、自分ではないのか。どうして、自分では駄目なのか。答は自分自身が駄目人間だからという事以外無いのだが、それを問わざるを得ず、それを問うたびに肉体的・精神的・神経的な苦痛が萌した。苦痛は攝津を解放の願望へ誘い、それは死を意味した。解放者としての死。一切の苦痛からの、あの根本的な「自分苦」からの解放者としての死! だが、攝津は死ねぬのが分かっていた。それは「人倫」の故である
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