シコシコ/攝津正
そんなに買うのかと問うてきた。尤もな意見だ。攝津は、死にたいと思いつつ、自己愛故に死ねないのだった。そんな中途半端な状態を二十年以上続けてきた。惰性と諦念をもって生きている。自分は死に切れないのだという諦念。死ぬ勇気や覚悟が無いのだという自覚。攝津は正直に言えば死ぬのが怖かった。痛いのが厭だった。また、家族など周りに迷惑を掛けたくないとも思っていた。だが、攝津の状況はどう見ても行き詰まりそのものだった。音楽家になりたいが、なれない。技術が無く、音楽家になるのに必要なものが何一つ無い。だから音楽家になれない。倉庫内作業員である。その現実を受け容れねばならぬが受け容れられぬ。痙攣的に身体が、情念が拒否
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