生きる/攝津正
て、凡庸な日常に足を踏み出すより他無いのだ。攝津は多くの点で恵まれていた。世の野宿者や派遣切りに遭った人達に比べて。同僚は優しく職場は理解があった。だがそれに甘えてはならぬ。あくまで仕事は仕事としてきちんとこなさねば、と攝津は思っていた。それが喩え創造性のかけらもない、誰にでも出来る単純作業だったとしても、それを一所懸命やらねばならぬ。しかし、攝津には体調を自己管理する事が難しかった。急に気分が悪くなったり、労働継続が不可能になったりするのである。周囲にも心配や迷惑を掛けるし何とか避けたいと思ったが、避けられなかった。
攝津は静かで穏やかな何も起らぬ日常に感謝した。静謐と安寧の裡でのみ、攝
[次のページ]
戻る 編 削 Point(1)