竜の牙/いとう
穴を見比べ、顔を手で覆う。ネマは誰にも聞
こえないような声で何か唱えている。屋根の
穴から見える空では、闇が薄くなり始めた。
もうすぐ夜明けだ。
ウマサの死体を放置したまま村の者たちは出
掛ける。何かしようにも、牙が地中深く食い
込んでいて動かせないのだ。葬送するには、
死体を引き裂くしかない。あるいは、家ごと
燃やすしかない。
竜の狩り場へ向かう列はまるで葬列のように、
誰も何も言葉を発しない。子供たちもその空
気を感じ取り怯え、女たちの太腿に張り付い
て離れず、女たちは歩きにくそうにしている。
竜が獲れたのだ。これで数十年は村の食料だ
けでなく地位も名誉も
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