竜の牙/いとう
 
を待つ。夜が明ければ、すべては上手
くいくのだ。子供たちはまだ見ぬ竜に思いを
馳せる。愛する者の死を聞かされた女たちは、
その涙を豊満な胸に隠す。

本当に寝始める者も出てくる深夜、これまで
聞いたことのない大きな音が村を襲う。そし
て地響き。次いで、一閃、女の叫び声が響き
渡る。村中の者が声をたよりに集まる。そこ
ここで松明に火が点く。叫んだのはウマサの
女だ。女はすでに叫びを通り越して無言だ。
失禁している。小便の流れる先に、ウマサの
死体がある。人の背丈ほどの薄茶色い牙が腹
に突き刺さっている。血の赤と小便が混じる。
屋根には大きな穴が開いている。長は、牙と

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