労働/攝津正
 
からだった。その時攝津は無職だった。無職の自分が何故、返すあてもない金を借り続けたのか、ローン地獄から抜けつつある今はもう攝津自身にも分からぬ。ただ確かなのは、攝津が、この一枚を買えば音楽家になれるかも……といった甘い考えを持っていたということである。無論、何枚CDを買おうと、音楽家になどなれるものではない。そのことは、攝津自身承知していた。だが攝津は、高田馬場のMUTOや渋谷のタワーレコード、 HMV、或いはAMAZONなどでCDを買い漁るのを止められなかった。
 愈々追い詰められた攝津は或る日、日雇い派遣で働いた。食品工場だったが、過酷な職場であった。二日目、攝津は転倒し、右肩骨折の重傷を負
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