干し柿の匂い/亜樹
り紙の上にべッと干し柿の種を吐くと、くるんでそのまま書斎のゴミ箱に棄てる。
普段なら、こんなことをすると、妻にひどく叱られるのだが、今日はその心配もなかった。
妻の弘子は、先週から実家へ戻っている。
と、言っても、三行半を突きつけられたわけではない。
里帰り出産の為、実家へ戻る前に、弘子が作っておいてくれた常備菜は、ぼちぼち尽きかけていた。もともと食べることにさほど頓着しない邦春は、干し柿をくちゃくちゃと噛みながら、一人きりの部屋で仕事をしている。
この干し柿も、妻の家から送られてきたものだ。都会育ちの邦春は、干し柿が吊るされている風景など、ついぞ見たことが無いが、これは義母の
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