干し柿の匂い/亜樹
 
母のお手製らしい。
 そういえば、と邦春は思いだす。
 父も、毎冬一度は必ず、干し柿を買って来て一人で食べていた。
 少年であった自分は、大人というのはなんとまずそうなものを食べるのだと思っていたが、今ならばあのときの父の思いがわかるような気がする。
 いまひとつ、邦春は干し柿を手に取った。
 かぶりついたその瞬間、鄙びた甘い、醗酵した果物の匂いがする。

 ふるさととはきっと、こんな匂いがするに違いない。

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