今にも落ちてきそうな空をみた/影山影司
 

 私は最後のボルトを外し、鉄塔を安全靴で蹴った。
 一度ではびくともしない。重機の一つも引っ張ってくればよかった。泣き言を言っても始まらないと、何度も何度も蹴りつける。巨大な重量が、そのまま地面に鉄塔を固定している。
 そして、風が吹いた。
 鉄塔がかすかに揺れて、そのまま横倒しに崩れる。轟音。電線を引きちぎりながら斜面を滑り、樹木が引き剥がされる音、鉄の軋み、土砂の巻き上がる音が私の鼓膜を痛めつける。
 私は、遠く、街を見下ろした。家や店舗、信号の明かりは消え、弱弱しい車のライトや、非常電灯しかついていない。暗闇だ。耳を澄ませば、ブザーだの、人の声などが聞こえてくる。空を、見るんだ
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