山田せばすちゃん『ハンバーグをめぐる冒険』について/田代深子
 
だ。しかし、せっかく色とりどりのメニューを前に、遊び心のないことではある。なに
しろ父親=語り手にとって関心事は、いま別のところにある。
 なかなか肉づきのいい腰をもった女性店員が口にする奇妙な一連の言葉遣い…〈お席の
ほうご案内します〉〈こちらがお席の方になります〉…習慣的に使われている、多分に曖
昧な用語法の数々に、この語り手は気をとられている。「ほう」というのは大づかみな方
角や方面を指す語であって、確定した一所を指す場合には使わないのではないか? 偏執
的にも語り手は気になってしかたがない。さらに追い立てるように〈お水の方はセルフと
なっております〉…〈今度ばかりは彼女が指差
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