阿修羅の悲しみ/es
 
は真っ暗。寒い。奈良を舐めていた。こんなに冷え込むとは。赤ちゃんもひっきりなしに指を舐めていた。俺は夏物スーツ。寒い。助けてくれ、仏様。一五〇〇円もあんたに払ったんだ。あんたに助けてもらうために来たのにこの仕打ちはなんだ。薬師如来が、アホぬかせ、逆に風邪ひくわ。
 七〇分待ってとうとう辿り着いた。阿修羅様と名だたる弟子や八部衆たち。中央には釈迦如来。不思議と感動がなかった。なんてこたなかった。何が楽しいのやらさっぱり分からなかった。古いということだけは分かった。いや、正直それさえもどうでもよかった。なぜ人々がこれほど群がるのか分からなかった。阿修羅像に見入る人々が、格子戸ごしの女郎に性欲を覚える
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