阿修羅の悲しみ/es
この日、念願の興福寺参詣が実現された。来年は平城京遷都一三〇〇年にあたり、それに向けて南都各寺院ではイベントが開催されている。興福寺においては「お堂で見る阿修羅」と題して、あの三面阿修羅像が拝観できるのだ。私はこんな機会は滅多に無いと、仕事帰りの疲れと慢性の過呼吸にもめげず奈良へ向かった。
四時過ぎ着であったか。現地は金曜日のせいもあってか混雑していた。阿修羅像にたどり着くまで九〇分待ち。入観料一五〇〇円。高い。しかしこれも阿修羅と無著・世親像のため。私は躊躇なく払った。列が延々と続く。前の客は親子で、母親に抱かれた赤子が俺の顔から目を話さない。いつもこうだ。なぜだ。そうこうする内に辺りは真
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