『美津』のはなし/亜樹
 
日も。しようがない。車で行く以外、30kmはなれた職場まで行く方法が、美津にはなかった。同僚も上司もみんな同じだ。それが普通だと思っていた。
 しかし、こうして地下鉄のある街へきても、こっちのほうが断然いい、などとは思えない。熱がある日も、病院へ行くときも、人ごみを掻き分け、自分の足で夏には暑く焼けたコンクリートの上を、冬には冷たい風の中を歩かなければならない。
 肩から提げた荷物が重たい。美津はため息をついた。
 こうした、ぼんやりとした時間、美津の暇つぶしは、もっぱら頭の中で『おはなし』をつくることだった。
 くくる、という言い方は、もしかしたら相応しくないのかもしれない。それは意識す
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