わからないまま/殿岡秀秋
 
小学校にはいって間もないころだ
ぼくは母と兄とで電車に乗った
扉が開いて母が座った席の左隣を
すばやく兄が占領した
母の右隣の席は空いていない
ぼくは兄の隣に座るしかなかった

母は電車にゆられながら目を瞑る
兄は頭を母の肩に傾ける
ぼくはとりのこされた
駅にとまってドアが開く
母の右隣の席が空いた
ぼくはそちらに移って
母の肩に頭をおこうとした

目をつむったまま
母は肩をずらして
ぼくがよりかかるのをいやがった

なぜなのか
鈍い金属音をたてながら
疑いが揺れた
終着駅で降りるまで
どこへ行くこともできずに
足踏みしているうちに
ぼくの胸の床が
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