花は女の匂いがする/亜樹
 

 先輩のアパートの部屋の前で、私は
「鍵はどこですか?」
 と、聞いた。抱きかかえた先輩は、ひどく軽い。さらさらの髪が、私の頬にかかってくすぐったかった。
「***ちゃん」
 先輩の声はいつに増してあまかった。その唇が、近づいてくる。アルコールの臭気の中に、先輩が好んでつける香水の匂いがした。
「よけないの?」
 再び離れた唇が、また言葉をつむぐ。
 先輩は、キス魔だった。
 雪こそ降っていなかったものの、その日はひどく寒かった。
 だからだと思う。
「じゃあ、一緒に寝よう?」
 そう言った先輩に引かれ、私は一晩、赤いカーテンのかけられた部屋で過ごした。




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