花は女の匂いがする/亜樹
 

 あの晩、何をしたか、具体的によく覚えてはいない。
 覚えているのは、服の下、アバラが浮いた、彼女の薄い胸と、あの、甘い、花の匂い。
 確か、彼女は私の下で、笑って、愚図って、嘲った。
 その言葉ももう、覚えていない。
 彼女は、私が好きで、好きで、大嫌いな、女の塊のような人だった。
 女々しくて、うっとうしくて、ヒステリーで、集団になることで凶暴化する、寂しがりやの弱い生き物だった。

 この冬、私は多分結婚する。親にカミングアウトするつもりもない。親戚にすすめられたお見合い相手と、すすめられるまま結婚。
 向こうもそんなものだろう。
 ただ、ひとつ、気がかりなことがある。

 私の処女膜が、喪失した瞬間に、私はあのときの彼女のように、甘い匂いをさせて笑うことができるだろうか。
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