夕暮れ/オイタル
 
ねえちゃん。」
も一度呼ばれても、まだ知らないふりです。
「ねえちゃん、ぼくもブロック。」
ようやく言葉の意味がわかりかけ、けれど本当はたいしてブロックがほしいわけでもないだろう二歳の弟の、気をひこうとの一言です。
 それでもまだ知らないふりの姉の背中に、小さなパンチ一つ喰らわして逃げる弟の背中を、
「ばか。」
怒鳴り声が追いかけます。

 夕暮れ。
 白いシャツ着た姉と、白いシャツの弟の手を引いて、出かけた散歩のその途中、小川や田圃の入り組んだ風景の全体が、すっと蒼ざめるようなひとときがあります。
 遠く長く連なる山陰に夕日が姿を消すとき。その山陰から、薄い紫の夕暮れの空に向
[次のページ]
戻る   Point(3)