今日、鶏のシチュー/瀬崎 虎彦
た。夏休みの後半、もう一つ論文を書かなくてはいけないと君は言う。それは頼まれた仕事なのだけれど、なんとなく自分でも一度文字にしておきたいと思っていたことなので、楽しみだという。まだ書かれていないものについて、楽しみとかそうじゃないとか、そう思う感覚は正直よく分からない。でもこういうものを書きたい、という期待なんだろう。
私からコーヒーを受け取った君は、ようやくお帰りといってこちらを向く。私の肩や胸を、ちゃんとそこにあるかどうか確かめるように撫でる。それから腰を抱き寄せて私のお腹に顔を押し付ける。それが君なりの甘え方らしい。これは儀式のように繰り返されていることなので、今では興奮もしないしその
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