今日、鶏のシチュー/瀬崎 虎彦
をねじ伏せても仕方ないので、理解できなくても私と君は折り合いをつけるという、無言の条約を結んだ。つまり、何も言ってはいないけれど、私たちは多分分かりあった。
「三度・・・夜の/肌の匂い/声の温度・・・喉は・・・もっと欲しがる/貝のかたち・・・中で/細く・・・糸を・・・吐く・・・そんなに・・・/・・・この世界にあるものなのか」
時々君が何かを音読する。書かれている内容に入り込めない時、君はよくそうする。そして断片的に、或いは気になった言葉だけを声に出すので、それを聴いている私にはさっぱりだ。私は本を読まないので君の声を聴いて想像してみる。でもそれで丁度良いバランスなんだと知っているので、
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