スモールワールド/あすくれかおす
 
いに摘むから。
怖くはない。



鯨の背中。濡れた黒い砂浜。犬みたいに蹴散らして歩く。
そこに、灰が降るように次々と着地する人々。
現実が理想を駄目にするのではなくて、たよりない空想がみんなの足を止めてる。
「駆け落ちした王子の花嫁はモグラにめとられました」
「約束の王子は六畳一間にのこされました」



遠くにカフェが見える。カフェテラスが見える。
ヨークシャーテリアの飼い主の爆笑が聞こえる。耐えかねる。
有刺鉄線を踏みつける。細くて、さみしい痛み。
はぐれてしまった文明迷子。
鯨の背中のような場所。
投棄された冷蔵庫を見つける。あける。まだつめたい。

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