鰻の行方/亜樹
と放った。
そうして、その日が来た。
水田へと水を引かれた井戸は、いつもよりも水位が下がる。その隙に、壁についた苔や水面に浮かぶ落ち葉掃除するのだ。
井戸の中に降りるのは、父親の役目だった。敬三を縄梯子がずれないように持ったり、父親が取り出したごみを畑まで持っていったりと、せわしなく働いた。
「お父さん」
しかし、それでも鰻のことは忘れられなかった。
「何だ?」
井戸からひょっこりと顔を出した父親に、きらきらと目を輝かせながら言う。
「鰻、おらんかった?」
しかし、父の返事は、敬三が期待していたものではなかった。
「おらんよ」
「嘘!?」
「嘘じゃないっちゃ
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