鰻の行方/亜樹
 
られた、時々砂利が混じる以外は、概ね問題ない水である。
――そうだ。
 思うが早いか、敬三は薄っぺらいトタンの蓋をどけ、たらいに入った水ごと鰻を井戸の中へと落とした。
――飼えば、いいんだ。
 来年の六月七日には、きっと随分大きくなっていることだろう。
――そうしたら、おとうさんに捌いてもらって皆で食べよう。
 井戸に再び蓋をしたとき、母の呼ぶ声を聞いて、急いで敬三は家の中へと入った。


 それから敬三は来年の六月七日を心待ちにした。カレンダーには印をつけた。井戸の中では食べるものも無いだろうと、家人の目を盗んでは蛙やミミズ、時には台所からこっそり頂だいした麩なんかを井戸へと放
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