鰻の行方/亜樹
 
た。何分、小さい。食べようにもあまりに小さい。さばいて蒲焼にしたところで、一人前取れるかどうかだ。かと行って重たいたらいを担いで帰ったのに、川に返すのも業腹だ。
 どうしたものかと頭を悩ます敬三の視界の端に、井戸が映った。
 件の、六月七日に掃除をする井戸である。今はもう葉しかついていない紫陽花にかこまれたそれは、敬三の祖父が生まれる前からあったらしい。苔むしたそれには、トタンの蓋がついている。大して重くもない。敬三の家の洗濯と食事には、この井戸の水を使っている。電気のモーターでくみ上げて、何度かろ過して、蛇口を開くと普通に井戸の水が出てくるようになっている。保健所にも飲料に適した水と認められ
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