鰻の行方/亜樹
 
 それは遠い夏の日の話である。
 
 それが正確にいつのことなのか、もはや敬三には思い出せない。その程度には昔の話だった。
 ただそれが夏の日だと確信できるのは、あの日の太陽がぎらぎらと輝いていたからというだけの理由に過ぎない。
 もしかしたらそれは残暑厳しい秋の話だったのかも知れない。ただ一つ確かなのは、六月七日よりも後のことだということだけだ。毎年、敬三の家では七夕の一ヶ月前に井戸の掃除をする。それよりは後の話だった。
 その日、敬三は川で遊んでいた。照りつける日とは切り離されたように川の水が冷たく、始終動き回っていなければそのまま凍り付いてしまいそうだった。それでも学校の古びたプー
[次のページ]
戻る   Point(1)