ジッパーで世界は隔てられている/瀬崎 虎彦
行こうと思っているのだが
せっかくパリにいるのだし雪を踏んで
エッフェル塔を見に行ったら人また人
馬鹿馬鹿しくなって地下鉄に乗って帰ってきたら
駅を一つ間違えてバスティーユまで行ってしまう
そこからオステルリッツに引き返したら
去年公開されたアニメ映画のポスターを見て写真を撮る
プシュっという音よりもグシャッという音で
フランス訛りの地下鉄はドアを開く
これもまたジッパーの一つに違いないと確信する
どれだけ意識的になっても今からでは
人の肉体と自分の肉体を判別できない
同じ肉体の同じ悪臭の中で眠ってしまうから
緑色の悪魔中性子の悪魔
肌をただれさせる悪魔
[次のページ]
戻る 編 削 Point(6)